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大阪地方裁判所 昭和48年(行ウ)49号 判決 1976年10月27日

原告 久保一清

被告 国

訴訟代理人 河原和郎 勝谷雅良 ほか二名

主文

1  被告は原告に対し、金一五、一七九、七七一円、及びこれに対する昭和四八年四月二〇日以降年七・三パーセントの割合による金員を支払え。

2  原告のその余の請求を棄却する。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告は原告に対し、金一五、一七九、七七一円、及びこれに対する昭和四八年三月二〇日以降年七・三パーセントの割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決及び仮執行宣言。

二  被告

原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とするとの判決。仮執行免脱宣言。

第二原告の請求原因

一1  久保清兵衛は昭和四〇年四月二六日死亡し、その長男である原告、長女久保斐子、養子久保爽が同人を相続したので、原告、久保斐子及び久保爽は昭和四〇年一〇月二六日芦屋税務署長に対して共同して次のとおりの相続税申告書を提出した。

原告

久保斐子、久保爽(各自)

相続財産額

二四、四四七、九四八円

一八、七九一、五九一円

相続債務額

六七二、五五五円

六七九、七〇二円

相続純資産額

二三、七七五、三九三円

一八、一一一、八八九円

相続税額

八、四〇一、八〇〇円

六、三三六、三五〇円

2  久保斐子及び久保爽は右相続税を完納しなかつたので、大阪国税局長は、原告が相続税法三四条一項により右相続税及びそれに対する延滞税を連帯して納付する義務があるとして、これを徴収するため、昭和四六年一〇月六日付で原告所有の芦屋市船戸町六五番一宅地一九・五四平方メートルを、昭和四七年二月二一日付で原告所有の同市船戸町五二番宅地七一一・三七平方メートルを差押えた。

3ア  原告は昭和四八年三月一九日右五二番の土地を株式会社ダイエーに売却した。

イ  株式会社ダイエーは右同日大阪国税局長に対し、前記差押の原因とされている原告の連帯納付の義務の代位弁済として次の額を支払つた。

久保斐子分

久保爽分

相続税

四、八四六、〇八五円

四、八四六、〇八六円

延滞税

三、八六四、七〇〇円

三、八六四、七〇〇円

滞納処分費

四六、九〇〇円

八、七五七、六八五円

八、七一〇、七八六円

ウ  株式会社ダイエーは右代位弁済の求償債権をもつて右アの売買代金債務と対等額で相殺した。

二  しかしながら、原告の右の相続税等の連帯納付の義務はつぎのとおり不存在であつた。

1  右連帯納付の義務は確定されていない。

ア 原告は請求原因一1のとおり久保斐子、久保爽と共同して相続税申告書を提出したものであるが、芦屋税務署長は、昭和四五年九月一日付で久保斐子及び久保爽の相続税につき原告に相続税法三四条二項による連帯納付の義務があるとして久保斐子分相続税本税五、四四九、三五七円、久保爽分相続税本税五、四四九、三五八円について納税告知書を原告に送達し、引続き同年一〇月九日付で右連帯納付の義務につき督促状を送達した。しかし原告が右納税告知につき異議申立、審査請求をしたところ、芦屋税務署長は昭和四七年二月七日右納税告知を取消し、そのころこれを原告に通知した。なお原告にはその相続税の連帯納付の義務につき賦課決定通知書が送達されたことはない。

イ 相続税法三四条一項の連帯納付の義務は第二次納税義務、譲渡担保権者の物的納税責任及び保証人の納税責任の場合と同様、他人の納付すべき税額を納付する場合に該当するから、これらの場合と同じく連帯納付責任者に対して税額確定のための特別の手続が法定されていなければならないところ、これが欠けているため手続上共同相続人に連帯納付の義務を追及することができない。

かりに右連帯納付の義務が国税通則法一五条一項にいう「国税を納付する義務」であると解しうるとしても、それは「納税義務の成立と同時に特別の手続を要しないで納付すべき税額が確定する国税」(同法一五条三項)には含まれていないし、「納付すべき税額を申告すべきもの」(同法一六条二項一号)ともされていないから、結局賦課課税方式により確定されるもの(同法一六条二項二号)と解する外はない。そしてその決定は同法三二条三項により納付すべき税額等を記載した賦課決定通知書を送達してすべきものであつて、このような決定通知書の送達のない場合には、連帯納付税額の確定はされていないことになる。

他の共同相続人が相続税申告書を提出して各人固有の相続税額が確定すると同時に連帯納付義務者として納付すべき税額が特別の手続を要することなく確定するとの考え及び数人の共同相続人の相続税の共同申告は連帯納付の義務の額をも確定することになるとの考えは、共同相続人の全員について同時かつ合一的に相続税額が確定することを前提としている。しかし、数人の相続人は各別に申告書を提出するのが原則であり、共同して申告する義務はなく、各申告者により相続人、課税価格等について申告内容が異なる可能性もあり、その場合は各人固有の税額や相続税の総額が共同相続人全員について合一的に確定しない。

以上のとおり原告の連帯納付税額は確定していなかつたから、これを徴収することはできなかつたものである。

2  本件相続税連帯納付の義務は時効により消滅していた。

ア 本件連帯納付の義務の法定納期限は昭和四〇年一〇月二六日である。

イ 芦屋税務署長は昭和四五年七月二〇日ころ久保斐子及び久保爽に対し前記相続税を督促しその督促状はそのころ同人らに到着した。

ウ 久保斐子及び久保爽は昭和四〇年一〇月二六日その相続税につき物納許可申請をし、ついで昭和四四年四月一五日これを延納許可申請に変更して担保提供申出をしたが、同税務署長は昭和四五年五月二〇日右延納許可申請を却下し、これを公示送達の方法により右両名に送達した。

エ しかしながら右公示送達は、右両名の所在を確認するため通常必要と認められる調査をすることなくその住所、居所が明らかでないと即断してされたものであるから、その要件を欠き違法である。

オ 右のように送達が違法である以上、右両名の物納申請が却下されていない状態であつたことになる。そして右物納申請により弁済が提供されており、右両名は履行遅滞の状態にはなかつたから、この状態でされた督促は違法であり時効中断の効力を有しない。したがつて原告の連帯納付の義務も法定納期限より五年を経過した昭和四五年一〇月二六日に時効により消滅した。

3  被告は久保斐子、久保爽からの徴収を怠つたから、信義則上原告より徴収することはできない。

ア 久保斐子、久保爽は当初相続財産その他その相続税を納付するに充分の財産を有していたから、被告(芦屋税務署長又は大阪国税局長)は右両名の前記2ウの物納申請を許可し、又は延納申請を許可して担保を提供させ、あるいは速やかに右両名に滞納処分を行うことにより、その相続税を右両名から徴収することが可能であつた。ところが被告は右のような徴収を怠つたためこの間に右両名の資力は低下し、前記一3の代位弁済の時点では右両名は無資力となつてしまつていた。

イ ところで、共同相続人の連帯納付の義務は補充的なものであるから、国はまず本来の納税者からこれを徴収するよう努力する義務を負つている。そしてこの義務を著しく怠つて本来の納税義務者が無資力になつてしまつてから、連帯納付義務者より徴収することは信義則上許されないところである。

4  共同相続人の連帯納付の義務は延滞税に及ばない。

相続税法三四条一項の「相続税」とは相続税本税のみを意味しこれに対する延滞税を含まないから、延滞税を共同相続人より徴収することはできない。

5  以上のとおり前記一3の納付は原告にその納付義務がないのにされたものであるから過誤納金に該当する。

三  被告は昭和四八年七月三〇日前記一3の納付金のうち久保斐子の延滞税五一四、七〇〇円、久保爽の延滞税一、七七四、〇〇〇円を免除し、これを原告に還付した。

四  よつて、原告は被告に対し、国税通則法五六条にもとづき、前記一3の納付金より右三の還付金を差引いた金一五、一七九、七七一円の過誤納金、及びこれに対する納付の日の翌日である昭和四八年三月二〇日以降年七・三パーセントの割合による同法五八条の還付加算金の支払を求める。

第三請求原因に対する被告の認否

一  請求原因一1、2及び3イの事実は認める。同一3ア、ウの事実は知らない。

二1  請求原因二1アの事実は認める。同イの主張は争う。

相続税法三四条一項の連帯納付の義務は他の共同相続人の相続税申告によつて当然確定する。この連帯納付の義務は申告によつて確定した自己の相続税額を超えて他の共同相続人の相続税債務額まで納付すべき義務を特に法が定めた共同相続人に対する特別の義務である。この点で国税通則法九条等のいわゆる連帯納税義務とは異なるもので、民法における連帯保証債務に似た法律関係であるといえる。それゆえ申告によつて各共同相続人の相続税が確定すると当然に他の共同相続人の連帯納付の義務も確定するものであり、国税通則法による確定手続を必要としないのである。

仮に連帯納付の義務が右のような性格のものでないとしても、連帯納付の義務は共同相続人らの共同申告によつて確定するというべきである。相続税法三四条一項にいう「納付の責」には申告義務も含まれていると解せられるから、同条項の連帯納付の義務は申告納税方式により確定すると解すべきである(国税通則法一六条二項一号)。相続税法二七条は、相続に因り財産を取得した者は、課税価格、相続税額その他政令で定める事項を記載した申告書を提出し、この申告書には、被相続人の死亡の時における財産及び債務、当該被相続人から相続に因り財産を取得したすべての者が取得した財産又は承継した債務の各人ごとの明細その他政令で定める事項を記載した明細書を提出しなければならない旨を定めている。しかも共同相続人らの共同申告の場合には右各事項を申告者各人が共通に確認し共同して申立てるものである。従つて右申告書には相続税法三四条一項の納付義務額の記載こそないが、その申告をも含むものとみうるから、共同申告書の提出によりその申告人の連帯納付の義務も確定すると解するべきである。

2  請求原因二2アイウの事実は認める。同エの事実は否認し、同オの主張は争う。

芦屋税務署長が延納申請却下通知書を公示送達に付したことは適法である。同署長は右通知書を郵便に付したが転居先不明として返送されて来たので、部下徴収職員をして住民登録上の住所が右郵便宛先と同一であることを確認させ、被送達者の兄である原告、並びに被送達者の従前の住居地の近隣の居住者、商店、警察官派出所及び小学校に被送達者の所在を問合わせる等可能な限りの手段をつくしたが、被送達者の所在を確認することができなかつた。そこでやむなく同署長は昭和四五年六月二六日前記通知書を同税務署掲示板に掲出して公示し、その送達の効力は同年七月三日発生した。

かりに、右公示送達にかしがあるため無効である場合には、延納許可申請が未だ却下されていない状態にあるから、徴収猶予である状態が継続していることになる(相続税法二七条、三三条、三八条一項、三九条二項、四〇条参照)。したがつてこの間は時効の進行が停止していることになり(国税通則法七三条三項)、消滅時効は完成していないことになる。

3  請求原因二3アの事実のうち被告が久保斐子、久保爽からその相続税を徴収する努力を怠つたとの点は否認する。同イの主張は争う。

芦屋税務署長は久保斐子、久保爽の物納申請を審査して延納申請に変更するよう指導し、その物納申請にかかる担保提供につき再三に亘り増担保の要求をするなど徴収の職責を果している。

もともと私法の分野において発展して来た信義誠実の原則が租税法律関係に適用されるかは問題であるが、これが適用されるとしても、それは何らかの事実が表示されこれによつて誤信を生じて行動した結果損害が発生した場合で、信義誠実の原則を適用しても違法な結果を生ぜしめないときに限ると解すべきであるが、本件の場合右の要件を充すものではない。

相続税については本来の納税者のほか共同相続人も連帯納付義務を負い、国としてはその何れからでも徴収することができるのであるから、本来の納税者から徴収することを怠つたことは、連帯納付義務者から徴収することの妨げとなるものではない。

4  請求原因二4の主張は争う。

国税通則法六〇条四項は、「延滞税は、その額の計算の基礎となる税額の属する税目の国税とする。」としているから、相続税についての延滞税は相続税とみなされることになり、相続税法三四条一項の連帯納付の義務は相続税についての延滞税にも及ぶことになる。

第四  証拠<省略>

理由

一  請求原因一の事実は3ア及びウの部分を除き当事者間に争いがなく、右3ア及びウの事実は原告本人尋問の結果により成立の認められる<証拠省略>により認めることができ、この認定を覆すに足る証拠はない。

二  そこで、本件連帯納付の義務が確定していない旨の原告の主張について判断する。

1  まず、相続税法三四条一項の連帯納付の義務も国税通則法一五条一項にいう「国税を納付する義務(納税義務)」に当ると解すべきである。

相続税法三四条一項は、共同相続人は他の相続人の相続税につき「連帯納付の責に任ずる」旨を規定し、この義務を「連帯納付の義務」と名付け、また国税徴収法はこの連帯納付の義務を負う共同相続人も同法二条六号の「国税を納める義務がある者」、「納税者」にあたり、同条九号の「滞納者」として滞納処分を受けることあるものとしていると解されることを考慮すると、右の連帯納付の義務は国税通則法一五条一項にいう「国税を納付する義務」に当るものと解するほかはない。

右の連帯納付の義務は、本来は他の相続人の負つている納税義務の支払確保、担保としての目的を有しその点で民法の連帯保証と類似するところがあることは被告の主張するとおりであるが、このことは国税通則法などの実定法上右の連帯納付の義務を「国税を納付する義務」と構成することを妨げるものではない。

2  相続税の連帯納付の義務については、特別の手続を要しないで納付すべき税額が確定するものと解することはできない。

特別の手続を要しないで納付すべき税額が確定する国税は国税通則法一五条三項に列挙されているところであるが相続税の連帯納付の義務はここに挙げられていない。そして租税関係法規は特に理由のない限りみだりに拡張解釈すべきものではないのである(最高裁判所昭和四三年(行ツ)第九〇号同四八年一一月一六日第二小法廷判決、民集二七巻一〇号一三三三頁参照)から、相続税の連帯納付の義務がここに含まれると解することはできない。

実質的に考えても、同条項に列挙する国税はいずれも課税要件事実と税額とが客観的に明白なものに限られているが、相続税の連帯納付の義務がこのような性格のものということはできない。少なくとも連帯納付の義務の限度は定める「相続に因り受けた利益の価額」の判断は遺産分割や遺贈の有無、効力、相続財産の範囲、取得財産の内容、評価について慎重に検討したうえでせねばならないものであるが、このような判断は容易にすることができるものではない。

更に、その目的及び要件の点で相続税の連帯納付の義務と類似したところの存する国税徴収法三章の第二次納税義務についても、当然確定の方式をとらず行政庁の処分によつて確定させることとなつている(同法三二条一項)のであつて、これとの対比から見ても、相続税の連帯納付の義務の確定につき行政庁の処分を要しないとの解釈はバランスのとれたものということができない。

3  相続税法三四条一項の連帯納付の義務は申告納税方式により確定するものと解することはできない。

申告納税方式により確定すべき国税は納税者が国税に関する法律の規定により納付すべき税額を申告すべきものとされている国税に限られる(国税通則法一六条二項一号)のであるが、相続税法三四条一項の連帯納付の義務につき税額を申告すべきものとしている法律の規定は存しない。相続税法二七条一項は相続税の申告について規定しているが、同項はその者に係る相続税額がないときは、他の相続人に係る相続税額の存するときでも申告書を提出する必要がないとしているのであつて、このことは同項が自己固有の相続税の申告に関する規定であつてその者の連帯納付の義務の申告に関する規定ではないことを示している。なお、同法二七条一項、同法施行令五条二号は、相続税の課税価格、即ちその者が相続に因り取得した財産の価額の合計額(同法一一条の二)及びその者に係る相続税額(同法施行令五条一号)のほか、被相続人から相続に因り財産を取得したすべての者に係る相続税の課税価格の合計額及び当該合計額を基礎として算出したこれらの者に係る相続税の総額を申告書に記載すべきものとしているが、右の課税価格の合計額及び相続税の総額についてはこれらを更正できる旨の規定もなく(同法三五条、国税通則法二四条、一六条一項一号参照)、相続税法施行令五条二号も課税価格の合計額及び相続税の総額「その他相続税額の計算の基礎となる事項」を申告書に記載すべきものとしていることから考えると、右の課税価格の合計額及び相続税の総額は同令五条六号以下の事項とあいまつて申告者の相続税額を判断するための参考事項として記載を要求したものにすぎず、これによつて課税価格の合計額や相続税の総額ひいては連帯納付の義務の税額について確定させようとの趣旨に出たものではないと解される。

相続税法、二七条四項は数人の共同相続人が申告書を共同して提出できる旨を定めており、被告は本件において右の共同申告書が提出されていることを理由として賦課決定等を要せずに連帯納付の義務を追及できる旨を主張している(なお、国税庁長官の国税通則法基本通達(徴収部関係)第八条関係4参照)。しかしながら、同項は「共同して提出することができる」と規定するだけであつて、共同して提出すべきことを義務づけているものではない。被告は同法三四条一項にいう「納付の責」には申告義務も含まれていると主張するが、租税法の他の規定と対比して考えても、この規定は連帯納付の実体的義務を規定したものであつて、申告の手続義務まで規定したものではないと解するほかはない。更に同法二七条四項の共同申告書の内容、効力についてみると、その記載事項については法令に特別の規定がなく(同法施行令七条の二参照)、同法二七条四項の申告書も「当該申告書」すなわち「第一項又は第二項の規定による申告書」とされていることを考慮すると、同条四項は数人の相続人の連署した共同申告書によつて申告書記載事項についての相続人間の申告の相違を事実上避けようとする目的を持つにとどまり、第一項又は第二項の規定による申告書以上の効力、すなわち相続税の連帯納付の義務を確定させる効力を持つものではないと解される。被告の前記主張は理由がない。

4  相続税法三四条一項の連帯納付の義務については賦課決定がなければこれを徴収することができないと解される。

前記判断のように右連帯納付の義務が「特別の手続を要しないで納付すべき税額が確定する国税」でも「納税者が納付すべき税額を申告すべきものとされている国税」でもない以上、これは賦課課税方式により確定されるべきものである(国税通則法一六条一項二号)。一般に賦課決定のような行政処分をするには法律の根拠を要するものであるが、右連帯納付の義務の賦課決定については同法三二条が適用されるから、税額の確定についての手続上の規定がないとの原告の主張は理由がない。

三  ところで、原告は他の共同相続人と共同して相続税の申告書を提出し、税務署長は原告の相続税の連帯納付の義務につき一度は納税告知書を送達したがその後その連帯納付の義務の税額の納付前に納税告知を取消し、他に右義務につき賦課決定通知書が送達されていないことは当事者間に争いのないところである。そうすると、前記判断のとおり国税局長は原告の相続税の連帯納付の義務税額及びこの徴収のための滞納処分費を徴収することはできなかつたものと言わねばならない。したがつて、その弁済として納付された金一五、一七九、七七一円は、国税通則法五六条一項(うち滞納処分費については更に同法五条一項)により、被告はこれを納税者である原告に還付する義務がある。

また被告は右の過誤納金を還付するにつき国税通則法五八条一項三号、同法施行令二四条二項五号によりその納付の日の翌日から起算して一月を経過した日である昭和四八年四月二〇日以降年七・三パーセントの割合による還付加算金を加算して支払う義務がある。しかしながら右過誤納金につき同年三月二〇日以降同年四月一九日までの期間に対応する部分の還付加算金の支払を求める部分の原告の請求は国税通則法五八条一項三号、同法施行令二四条二項五号に照らし理由がない。

よつて、原告の請求のうち過誤納金一五、一七九、七七一円、及びこれに対し昭和四八年四月二〇日以降年七・三パーセントの割合による還付加算金の支払を求める部分は理由があるからこれを認容し、その余は理由がないから棄却することとし、訴訟費用は行政事件訴訟法七条、民訴法八九条、九二条但書により被告の負担とすることとし、仮執行宣言申立は理由がないからこれを付さないこととして、主文のとおり判決する。

(裁判官 石川恭 井関正裕 春日通良)

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